現金の信託と信託口座
現金を信託する際の管理方法
家族信託により受託者が財産管理を行いますが、
受託者には「自分固有の財産とは明確に分けて管理する義務」
(分別管理義務)があります。
不動産であれば「登記」により、受託者の肩書や名前が記載されますので、
分別管理は客観的な方法で行うことができますが、
現金は「誰のものか」ということを客観的に表す方法はありません。
もし、受託者個人の通帳に入金すれば委託者の現金と
受託者の現金の区別ができなくなりますし、贈与とみなされる可能性もあります。
信託法では金銭の分割管理方法については
「その計算を明らかにする方法」と定められているにすぎません。
「金庫」で現金を保管しても構わないのですが、
数百万円~という大きな金額を管理するとなると、
金庫で管理するにも不安があります。
そこで、金融機関の口座を活用して管理することになります。
信託口口座と信託専用口座
信託口(しんたくぐち)口座とは
信託口口座とは「信託を活用した財産管理専用の口座」のことです。
「委託者〇〇信託受託者△△」のような通帳名義ですので、
口座内の現金は信託で管理されていることが
明らかになります。
受託者個人の預貯金とは別個のものなので、
受託者個人が死亡したり、受託者個人の債権者による
口座の差押えがあった場合でも、口座が凍結する心配は
ありません。
ただ、信託口口座を取扱っている金融機関は全国的にも多いとは言えず、
熊本では現在取扱っている金融機関はありません(2020年1月末現在)。
また、対応している金融機関でも無条件に作成できる
訳ではなく、以下の要件を充たすことが必要になります。
①公正証書で家族信託の契約書を作成すること
②事前に契約書の確認を金融機関のチェックを受けること
③一定以上の金額の取引が見込めること
信託専用口座とは
信託の現金管理用の受託者個人名義の口座です。
対外的に見ると信託管理用の口座とは分かりません。
そこで、家族信託の契約書を作成する前に受託者個人の
口座を作成しておき、契約書に口座番号を記載します。
そうすることで、口座内の現金は委託者=受益者(親)の
ものであることを客観的に証明でき、贈与税の課税を
防ぐことができます。
ただ、あくまで「受託者個人の口座」ですので、以下のリスクがあります。
- 受託者が死亡したときに預金が凍結するリスク
受託者死亡のリスクに対処するために予備的受託者(受託者が死亡、
病気などで、受託者として業務ができなくなった時に就任する受託者)との間で、
暗証番号やインターネットバンキングのパスワードなどを共有し、
死亡による口座凍結のリスクを減らすことができます。
- 受託者の債権者に差押えのリスク
差押えがされれば、「口座内の現金は信託によって
管理しているもので、受託者自身のものではない」という
異議を裁判所に申し立て、裁判所に認めてもらえば
差押えは解除されますが、手続きには時間がかかります。
また、必ず解除される保証もありません。
信託口口座で管理する方が安心
信託専用口座における、受託者自身の死亡や差押えのリスクについては
完全に対処することはできません。
そこで、現時点で信託口口座を作成してもらえる金融機関がない場合には
とりあえず信託専用口座で管理し、信託口口座を開設できるようになったら、
信託専用口座から信託口口座へ現金を移動して、それ以降は信託口口座で
現金を管理することが大切です。